『赤光』初版「七月二十三日」③ No.00023

2021-05-17

たたかひは上海しやんはいに起りたりけり鳳仙花あかく散りゐたりけり  『赤光』初版「七月二十三日」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「七月二十三日」五首中の第三首。

「たたかひは上海しやんはいに起りたりけり」の戦いとは何か。「中国では袁世凱えんせいがいの独裁政治に対抗すべく、第二革命の火蓋が切られて、〔……〕上海では陳其美ちんきびなどが立った」という(田原総一朗『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか: アジア主義者の夢と挫折』)。これは「中国、辛亥しんがい革命(第一革命)後の1913年、袁世凱の国民党弾圧に対する反袁の挙兵」である(『日本大百科全書(ニッポニカ)』「第二革命」)。「1911年の辛亥革命によりしん朝が倒れ、中華民国が成立、12年3月袁世凱が北京ペキンで臨時大統領に就任した」が、「13年2月の国会議員選挙で国民党側が大勝すると、じゃまな国民党勢力をそぐために袁世凱はまずその領袖りょうしゅうである宋教仁そうきょうじんを暗殺するとともに、国民党系の3人の都督(一省の軍事責任者)を罷免または左遷した」。「この袁の挑発にのせられ、13年7月、江西省の李烈鈞りれつきんなどがたって反袁の軍事行動をおこした」のである。

『赤光』初版「屋上の石」の一連中にも「鳳仙花」が詠み込まれた歌があった(「屋上の石」③)。その歌での場所は「城あと」であり、「散り散りたまる」と表現された。掲出歌では、場所がわからない代わりに「あかく散りゐたりけり」と色の情報がある。鳳仙花には白・桃・赤などがあるが、この歌では紅と特定されている。

  上句と下句との取り合わせは偶然の組み合わせかもしれない。しかし、身近な紅い鳳仙花に、遠き上海での反乱を思うというのは、即き過ぎ(平凡な組み合わせ)でもなく、離れ過ぎでもない。鳳仙花は、「中国では宋代の本草書に見え、日本にも中国から渡来したものと思われる」という(『精選版 日本国語大辞典』)。

  掲出歌の前の第二首と続く第四首は作品主体の「夏休日なつやすみ」とその後の勤めが詠まれている。そのため、掲出歌はそこに挿入された歌のようになっているが、第五首でも「鳳仙花」が詠み込まれる。第一首と掲出歌が取り合わせの妙で、一見想像的な映像を見せているが、第五首は地に足の着いた写生歌となる。

https://twitter.com/takahashi_ry5?s=09

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