『赤光』初版「麦奴」② No.00027

2021-05-17

雨空あめぞらに煙のぼりて久しかりこれやこの日の午時ちかみかも  『赤光』初版「麦奴」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「麦奴」の十六首中二首目。

  雨が降る空にずっと煙が上っている。煙は、次の三首目で「けむり」とルビが振ってある。

  「久しかり」という終止形は存在しない。正しくは「久し」である。短歌俳句で慣用的に用いられている「カリ終止」である(大野秋田「文法外の文法と俳句の文語(前編)」)。カリ活用が本活用化することによって生まれたものである。

  「これやこの」は、「これがあの」という意味だが、ここでは音調を合わせる目的で用いられていると思われる。「午時ごじ」は、昼の十二時ごろ。「ちかみ」は、「ちかし」の語幹と接尾語「み」で原因・理由を表す。「かも」は、詠嘆。すなわち、下句は「これこそ、今日の正午が近いからだなあ」という意味になる。

  三首目で「いひかしぐけむり」という予想がされており、昼ごはんの支度に伴う煙と見たとわかる。また、「鉛筆のを研ぎてて」とあるから作品主体は屋内にいて、屋外に煙が見えているのだろう。

https://twitter.com/takahashi_ry5?s=09

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