『赤光』初版「麦奴」⑤No.00030

ひた赤し煉瓦の塀はひた赤しをんな刺しし男にものいひ居れば  『赤光』初版「麦奴」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「麦奴」の十六首中五首目。

  「ひた赤し」の反復が印象的。「ひた」は「直」の字が当てられ、「すべて」「まったく」の意を表す接頭語。つまり、真っ赤ということだ。下句の背景は真っ赤なレンガの塀である。

  「をんな刺しし男」は病監の囚人だろうか。一連の後の詞書に「殺人未遂被告某の精神状態鑑定を命ぜられて某監獄に通ひ居たる」とあるから、この男が「殺人未遂被告」であると思われる。「ものいひ居れば」で、「ば」は已然形に接続し順接の確定条件であるから、「偶然の条件」で意味を取れば「言葉をかけていると」となる。「精神状態鑑定」のための面談か。

  十二首目、十六首目にも「男」という語が出てくる。次の六首目からは、計六首にわたり「囚人」という語で表現される。一連の後の詞書に「殺人未遂被告某」とあるから、一人の男について「折にふれて詠みすて」たとわかる。しかし、中には九首目「相群れてべにがら色の囚人」、十三首目「囚人の群」のように不特定多数の囚人を詠んでもいる。

https://twitter.com/takahashi_ry5?s=09

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