『赤光』初版「麦奴」Ⅺ No.00036

光もて囚人のひとみてらしたりこの囚人をざるべからず  『赤光』初版「麦奴」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「麦奴」の十六首中十一首目。

作品主体が光を使っている。手にもつ灯か、机上などに設置された灯か。照らされているのは囚人の瞳。やはり一連後付の詞書の通り「殺人未遂被告」なのだろう。

「この囚人」と上句を受ける。ここで「この」と言うとき、「この野郎」「こんな奴」「こいつ」といった文脈で用いる指示語に通じるものが感じ取れる。一方で、「精神状態鑑定」をする精神科医の視点で医学的・客観的に対象を観察する眼も「この」という指示語には含まれる。その医師という職務上、観なければならない(観ざるべからず)のである。

八首目では「囚人の眼」が「やや光り」、次の十二首目では「この男」は「板の上にひとみを落す」。しかし、掲出歌の特色は、作品主体の眼も映像として浮かびやすいということだろう。囚人の眼と作品主体の眼が向き合い、視線が交錯する。目は口ほどに物を言うものだが、囚人と作品主体との眼にはそれぞれ何が見えただろうか。

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