『赤光』初版「麦奴」Ⅻ No.00037

けふの日は何もいらへず板の上にひとみを落すこの男はや  『赤光』初版「麦奴」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「麦奴」の十六首中十二首目。

一連後付の詞書にあるように「精神状態鑑定」であるから、そのための質問に「殺人未遂被告某」が答えた日もあったのだろう。しかし、今日はというと答えない。作品主体と「殺人未遂被告某」はいずれも椅子に座って、机越しに向かい合っているのだろうか。それとも机などの障害物のない状況だろうか。

板というのは、机のことか。それとも、床板のことか。その板の上に、「この男」は「ひとみを落す」。「はや」は、係助詞「は」と間投助詞「や」からなる上代語の連語で、強い詠嘆の意を表す(『学研全訳古語辞典』)。

十一首目でも「この囚人」というように、「この」という指示語が使われていた。掲出歌での強い詠嘆の対象である「この男」の指示語にも、卑下・侮蔑の感情と医学的な対象物として見る冷たさが同居していよう。

https://twitter.com/takahashi_ry5?s=09

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