『赤光』初版「悲報来」② No.00003

2021-04-11

ほのぼのとおのれ光りてながれたる蛍を殺すわが道くらし
『赤光』「悲報来」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「悲報来」十首中の第二首。

  「おのれ」には「自分自身で」、「ひとりでに」という意味がある。  「光りて」と「ながれたる」の間には一息入れることもできるし、続けて読むこともできる。しかし、続けて読むことにすると、「ほのぼのとおのれ光りてながれたる蛍」という第三句から第四句にかけての句またがりとなる。

その「ながれ」はくじかれたような調子になる。歌の流れが滞ることで、「殺す」の意味が生きてくる。その唐突な「声の流れの停滞」は、「わが道」を暗くした師・伊藤左千夫の死(生の流れの断絶)という悲報とも重なる。

「光り」と「蛍を殺す」は第三首で反復される。「わが道くらし」は第一首につづき三度目。前後の歌との修辞的関連で成り立っている。「ほのぼのと」という擬態語的副詞は「しんしんと」との関連とも取れる。

 この歌だけでは、現実に蛍を殺したのかはわからない。しかし、次回扱う第三首の「手のひら」と「つぶれて」という語で実際に蛍が殺された情景が浮かび上がってくる。