『赤光』初版「悲報来」③ No.00004

すべなきか蛍をころす手のひらに光つぶれてせんすべはなし   『赤光』「悲報来」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「悲報来」十首中の第三首。「光」と「蛍をころす」は第ニ首の反復。

この一首で「すべなきか」という疑問に、「せんすべはなし」と断定する応答がある。その問答は目の前の蛍の死についてであると同時に、師・伊藤左千夫の死についてでもある。どうしようもないこととわかってはいるが、だからこそ第一首と第四首にあるように「走る」のである。この構成から、第二、三首は、走っている最中、もしくはしばし立ち止まったところだとわかる。

「手のひら」と「つぶれて」という語から、作品主体が死を触覚で捉えていることがわかる。それは、師・伊藤左千夫の死をいまだ実感できていないことと対照的である。

作品主体は、死を手に取るように実感するために、蛍を殺した。師の死はまだ実感できない。そのため、殺虫(!)を通して、現前に死を立ち現れさせたのだ。