『赤光』初版「悲報来」⑤ No.00006

氷きるをとこのロのたばこの火赤かりければ見て走りたり  『赤光』「悲報来」

『赤光』初版「大正二年(七月迄)」「悲報来」十首中の第五首。前の一首と同様、採氷している人々を見ている。たばこを吸っていたのは、一人だろうか。採氷の際、「氷きる」作業が何人で行われるものかはわからない。「氷きるをとこの口のたばこ」であるから、氷を切りながらたばこを咥えていたということだろうか。

  先に殺した蛍の光とたばこの火は、小さな発光体という点で共通している。蛍の光は点滅するが、たばこの火も息の具合により明暗が出る。光と暗闇、火と氷、蛍の死と師・伊藤左千夫の死。「悲報来」冒頭五首では、対照物の組合せが見られる。主題としては悲報を仕方なく受け入れるのと、容易に受け入れがたいのとの二律背反関係である。

  この一首では「火の赤」ゆえに作品主体は男を見たということだ。赤は明るさに通じ、生を現す。しかしそれがすぐに灰に消えていく。見るものすべてが生死に関わってくるのだ。作品主体は蛍を見ているのでもなく、火を見ているのでもない。師の生きた時間と現在の死が作品主体の「走る」冒頭五首に通底しているのだ。