『赤光』初版「麦奴」ⅩⅦ No.00042

殺人未遂被告某の精神状態鑑定を命ぜられて某監獄に通ひ居たる時、折にふれて詠みすてたるものなり。  『赤光』初版「麦奴」詞書

『赤光』初版「麦奴」十六首の後の詞書。

「殺人未遂被告某」は、五首目で「をんな刺しし男」、六首目で「監房より今しがたし囚人」、七首目で「囚人」、八首目で「ほほけたる囚人」、十一首目で「囚人」・「この囚人」、十二首目で「何もいらへず板の上にひとみを落すこの男」、十六首目で「彼の男」と表現される。

「某監獄」は、一首目で「あかき煉瓦」、五首目で「ひた赤し煉瓦の塀はひた赤し」とあるので、煉瓦造りであることがわかる。また、四首目で「病監の窓の下びに紫陽花あぢさゐが咲」いていること、六首目で囚人のいる「監房」があること、十二首目で机か床が「板」であることがわかる。

「精神状態鑑定」のために「某監獄に通」った主体。精神科医・斎藤茂吉である。五首目で「をんな刺しし男にものいひ居れば」、八首目で「女を云ふかも刺しし女を」とある通り、対象者に話をし、彼の話を聞く。十二首目で「けふの日は何もいらへず」とあるが、話を聞けない日もあった。六首目で「囚人はわがまへにゐてややめる」、八首目で「ほほけたる囚人の眼のやや光り」、十二首目で「板の上にひとみを落すこの男」とあるが、対象者の表情・しぐさを観察する。七首目で「巻尺まきじやくを囚人のあたまに当て居りて」とあるが、頭囲を測定する。十一首目で「光もて囚人のひとみてらしたり」とあるが、医師としての診察をする。十六首目で「血液を彼の男より採りて持ちたり」とあるが、血液を採り検査に回す。

「殺人未遂被告某」という個人と「某監獄」という特定の場所、主体が精神科医としてする「精神状態鑑定」のことが一連から浮き彫りになってくる。

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